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生産者紹介

vol.5 「銀杏」の生産者を訪ねて

■農産物:銀杏
■生産者:渡邊一嘉さん
■プロフィール:
弥彦村出身。40歳の頃、実家の農業を受け継ぐ形で就農。「Joy Farm わたなべ」の農場名で、水稲と果樹の複合経営に取り組んでいる。果樹は、銀杏を含めて5品目を栽培。弥彦村ぎんなん部会の部会長も務めている。銀杏の好きな食べ方は「素揚げ」。

 

ぶどう畑の跡地にて栽培が始まった銀杏

弥彦村で銀杏の栽培が始まったのは、2000年頃のこと。ぶどう栽培を目的に造成されたのち、耕作放棄地となってしまった農地の有効利用を目的に栽培を開始しました。

弥彦村では、井田丘陵という丘を開拓して畑を作ったのですが、風当たりや傾斜などの立地条件・ほかの作物との労力競合などの諸事情で、ぶどう栽培をあきらめる人が多く出てしまいました。その結果、造成された畑は耕作放棄状態となってしまったのです。そういった場所を有効活用したいとの目的で有志が集い、銀杏の栽培を始めました。」

「大粒で甘みがある」と評判の弥彦村の銀杏は、数ある産地の中でも高単価で取引されています。

「銀杏は、大粒なほど単価が高くなる傾向にあります。そこで弥彦村では、大粒に育ちやすい品種『喜平(きへい)』に統一して植付けを行いました。」

 

表年と裏年の差をどれだけ埋められるか

銀杏は、ぶどうやなしなどの果樹とは違って「摘果」を行いません。そのため、どれだけ樹に実がついたかどうかで、その年の収量が決まります。

「銀杏には、『表年』『裏年』というものが存在します。収量が多い年と少ない年が、交互に繰り返されるんです。私たち銀杏農家は、どれだけその差を埋めることができるかが勝負。そのためには、日当たりが良くなるような樹形に仕立てることや、肥料が切れないように調整することなどが重要ですね。」

渡邊さんには、一年の中で一番心が躍る瞬間があると言います。

「銀杏って、花粉を飛ばす花をつける『雄木』と、果実の実る花をつける『雌木』があるんです。雌木のほうに花がたくさんついていると、それだけ実が多くつきます。なので、春先に雌花がたくさんついた状態を確認できるとホッとします。」

 

運動会をしているみたいな、銀杏の収穫作業

弥彦村では、9月末〜10月中旬にかけて銀杏の収穫が行われます。

「このタイミングで収穫すると、殻を剥いたときに美しいエメラルドグリーンの銀杏をお届けできます。もう少し収穫が遅くなると、どんどん黄色くなっていくんですよ。エメラルドグリーンのほうがフレッシュ感があって、食感もぷりっとしていて美味しいですね。枝豆も少し若い時期に収穫した方が、さわやかで風味が良いですよね。それをイメージしてもらうとわかりやすいかな。」

そんな銀杏の収穫方法は、一風変わっています。

「銀杏は、果実が熟して落ちてくるのを待っていては遅いんです。樹に登り、枝をゆすって、銀杏を落とすんですよ。果物では考えられない方法ですよね(笑)。果肉ではなく、種を食べるからこそできる方法です。私は樹に登りやすいように、足がかりになる枝を残して剪定していますね。でもこれ、気をつけないと危ないんですよ。私は樹から落ちて、あばらをやったこともあります……。」

さらに、丘陵地ならではの大変さもあるそうです。

「井田丘陵の斜面に沿って植えられているので、樹から落とした銀杏は、ころころと下まで転がっていっちゃうんです。下まで銀杏を拾いに降りて登って、降りて登ってを繰り返します。銀杏の収穫作業は運動会をしているみたいですよ(笑)。」

 

銀杏は、季節感をプラスしてくれる名脇役

弥彦村では、収穫後に厳しい基準をクリアした銀杏のみを出荷しています。

「収穫後、果肉をきれいに取った銀杏を塩水に浸けます。ここでは、塩水に沈んだ、実がぎっしり詰まっている銀杏を厳選します。よく乾かしたら、さらに選別機にかけて、2Lサイズ以上のものが合格です。」

こうして厳選された銀杏は、「弥彦ギンちゃん」というブランド名で全国に届けられます。

「銀杏って、果肉があるときは臭いがキツくて厄介者だけど、果肉を取ってきれいにすると、みんなが目を向けてくれるようになる。その二面性が、銀杏という食材の面白さだと思います。決して主役ではないけれど、季節感をプラスしてくれる名脇役です。殻を剥いて食べるという、ひと手間も楽しんでもらいたいですね。」

 

銀杏の生産者を増やして、産地を盛り上げたい

「銀杏って定植してから、なかなか実をつけてくれないんです。早くて5年、安定するには10年はかかる。今後は、早めに実をつけられるようなテクニックを勉強していきたいです。そうすれば、新規就農者の方にも『銀杏面白いんで植えてみませんか?』と勧めることができますよね。」

また、銀杏の栽培は体力勝負だからこそ、高齢により畑を手放す生産者も多いそうです。

「ぎんなん部会では、栽培を継続できない銀杏の畑を新規就農者の方などに受け継いでもらう流れをつくっています。初年度からでも収益化が見込めますし、産地の維持にもつながりますよね。若手の意見を取り入れつつ、産地を盛り上げていけたら良いなと思います!」